ヴォルフ・メッシング

ヴォルフ・メッシング(Во́льф Григо́рьевич Ме́ссинг、Wolf Grigorievich Messing)、1899~1974。旧ソ連の催眠術師で、メンタリズムやマインド・リーディングのパフォーマンスも行って人気を博した。実際は超能力者で、他人の思考を操ることができたとも言われる。
 1899年、当時ロシア領だったゴラ・カルワリア(現ポーランド領)で、敬虔なユダヤ人家庭に生まれる。その生涯はほとんどが本人の証言によっており、それらによれば幼少時は夢遊病を患っていたが記憶力のよい子供で、6歳までにタルムードに精通していた。また、有名な作家シャローム・アレイヒムが村を訪れた際、メッシングの輝かしい将来を予言したとも言う[1]。ラビには宗教学校進学を勧められたが、本人は拒否してタバコ工場で働いていた。しかしあるとき、白い衣装を着た巨大な人物が現れ、「学校に行け」と告げられて意識を失うという経験をした。そこで宗教学校に通っていたが、あるとき学校を訪れた巡礼の中にこの白装束の男を見つけ、すべては自分を学校に行かせるため父親が仕組んだことだと判断し、以後無神論者になったという。
 1910年、11歳になると家を出、ベルリン行きの列車に切符も持たずに乗り込んだ。車掌が検察に訪れた際には新聞紙の切れ端を見せたが、車掌はそれを切ったという。
 ベルリンではユダヤ人地区で使い走りをして過ごしていたが、ある日空腹で倒れ、死んだと思われて死体置き場に運ばれた。しかし彼を診察したアベルという医師がまだ生きていることを発見した。アベル医師は、彼にカタレプシー(身体硬直)を起こす能力があると判断し、同僚のシュミット医師とともに、メッシングにテレパシーの訓練を行った。こうしてメッシングは、まず舞台でガラスの棺に封じ込められ、死んだような状態で何日か過ごすというパフォーマンスで知られるようになった。続いて、舞台で隠しものを当てるなど、相手の思考を読んだとしか思えないような出し物で人気を博した。1915年にウィーンで公演した際には、アインシュタインやフロイトにも会見したと述べている[2]。さらにその後10年間日本、ブラジルを含めて世界中で公演旅行を行い、1927年には、インドでガンジーとも会ったと述べる。
 1937年には、ヒトラーが東に向かうと死ぬという予言を劇場で行った。これを聞いたヒトラーは、メッシングに20万マルクの賞金をかけた。1939年、ドイツがポーランドに侵攻すると、ヒトラーの報復を恐れたメッシングは食肉倉庫に隠れたものの、ある夜秘密警察に捕らえられた。このときは殴られて歯を6本失ったが、自分の能力を発揮して警察署の職員を一室に集め、その隙に逃げ出し、ソ連との国境にある西ブグ川を泳いで亡命した。
 ソ連では、スターリンが直々に彼の能力をテストしたと言われている。
 スターリンはまず、国立銀行から10万ルーブルの金銭を引き出すよう命じた。メッシングは銀行で出納係に白紙を渡し、これが10万ルーブルの小切手だと思い込ませ、現金を引き出した。
 次にスターリンは自分の別荘に侵入してみるよう命じた。もちろん警備員には彼を入れないよう命じていたが、メッシングは警備員に、自分が当時の秘密警察長官ラヴレンティ・ベリヤだと思い込ませてスターリンの私室に現れたという。
 その後メッシングは、ソ連でマインド・リーディングを行うマジシャンとして有名になり、第二次世界大戦中は、1944年に自費で戦闘機2機を購入、赤軍に寄贈している。寄贈を受けたエース・パイロットのコンスタンティン・カヴァレフとは戦後も友人として親交を保った[3]。また1940年には、ソ連の戦車がベルリンを蹂躙すると予言したほか、1943年には、戦争が1945年5月、おそらくは最初の週に終わると予言、また1944年にはヒトラーが死亡する日を予言したと言われている。さらにキューバ危機の際にはフルシチョフに助言を与え、第三次世界大戦には至らないと伝えたという。犯罪捜査に協力したとの噂も伝えられている。
 1971年には、ソ連に貢献した芸術家に与えられる功労芸術家の認定を受けている。

【評価】
 スターリンもその能力を認めたと言われるメッシングであるが、彼自身の証言以外でスターリンやヒトラーとの関係、その劇的な能力を示す客観的な証拠は確認されていない。
 ヒトラーがメッシングに20万マルクもの賞金をかけたという記録はなく、スターリンが実際にメッシングと会見したことを示す文書も見つかっていない[4]。国立銀行から10万ルーブルの大金を引き出したという逸話については、同行した政府職員の証言があるとされ、後に小切手がただの白紙であることを確認した出納係が卒倒したとも言われるが、これくらいの大金になるとどの国の銀行でも出納係1人の判断で引き出せるものではない[5]。アインシュタインやフロイト、ガンジーとの会見も、メッシングが述べているだけで裏づけはない。日本への公演旅行については現在調査中であるが確認できない。
 こうした数々の逸話については、1965年、ソ連の雑誌「科学と宗教」に掲載された回想録が最初のようだが、これはミハイル・ヴァシリエヴィッチ・クヴァストゥノフというジャーナリストが捏造したものとの説もある[6]。この内容は1968年、モスクワを訪問したオストランダーとシュローダーによって西側にも紹介された。一方、アメリカに亡命してメッシングの伝記を残したタチアナ・ルンギンは、彼女自身の体験も交えてメッシングの能力について書き残している。
 ともあれ、舞台でのパフォーマーとしては、メッシングはかなり有名な人物だったようで、上述のカヴァレフだけでなく、多くの軍人や医師など、ソ連社会の名士たちとも交流を持ち、1971年には政府から功労芸術家として表彰されている。現在、「プラウダ」ネット版にも11月8日はメッシングの命日との記載が残る[7]
 彼自身は自分の能力について、少なくとも表向きには、マッスル・リーディングの一種であると述べたことがある。マッスル・リーディングとは、観客の無意識の筋肉の反応を読み取ることで、観客は知っているが術者は知らない回答を引き出すものである。例えば観客が小品を劇場のどこかに隠した場合、術者が隠し場所に近づくと無意識に筋肉が反応する。それを読み取ることで次第に範囲を絞り、最終的に隠し物を見つけるというものである。このためには、観客と身体の一部を接触させることが必要であるが、実際メッシングが劇場で物品を捜索する場合、しばしば観客に自分の手首を握らせていた。ただしメッシングは、自分は観客を観察するだけで反応を読み取ることができるとも述べていた。しかし、タチアナ・ルンギンは、メッシングが離れた場所にいる他人の知覚に影響を与えたとしか思われない事例も紹介しており[8]、こうした証言が正しいとすると、メッシングの能力にはマッスル・リーディング以上のものがある。ただしメッシング本人は、他人の思考に影響を与えることは禁じられているとして、ソ連ではほとんど用いることがなかった。本人は、いくつかの事件を解決したと述べているが、KGBや秘密警察との協力は否定している。
 なお、インドのサイ・ババは1980年以降、メッシングが1937年にインドを訪れて当時11歳のサイ・ババに会い、非常に喜んだと述べているが、メッシングの側からはそのような証言はなく、当時の状況からしても事実とは思われない。

【脚注】
[1]http://english.pravda.ru/science/mysteries/23-06-2011/118290-joseph_stalin-0/
[2] http://www.youtube.com/watch?v=HzypQJ4BGe8及びhttp://77.170.120.22/ex-baba/engels/articles/paperwolfmessing.html等によれば、場所はウィーンにあるアインシュタインのアパートとされているが、当時アインシュタインはウィーンにアパートを持っていなかった。タチアナ・ルンギン等はフロイトのアパートで会見したとし、このときメッシングは、フロイトの思考を読んでアインシュタインの口髭を3本抜いたとされる。
[3] http://airaces.narod.ru/all0/koval_kf.htm/には、カヴァレフと一緒にいるメッシングの写真があり、交友関係が確認できる。
[4]ロシア語ウィキペディア該当ページによる。ただし、記録が失われた可能性も否定できない。
[5]上記[4]によれば、当時ソ連国立銀行から現金を引き出す際、小切手はカウンターの係員から出納官吏官の審査を経て、すべての手続き終了後出納窓口から現金を受け取る。
[6] http://77.170.120.22/ex-baba/engels/articles/paperwolfmessing.html及びhttp://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9C%D0%B5%D1%81%D1%81%D0%B8%D0%BD%D0%B3,%D0%92%D0%BE%D0%BB%D1%8C%D1%84%D0%93%D1%80%D0%B8%D0%B3%D0%BE%D1%80%D1%8C%D0%B5%D0%B2%D0%B8%D1%87による。
[7]http://www.pravda.ru/news/society/fashion/11-08-2007/234818-1/。ただしその肩書きは「催眠術師」となっている。
[8] Lungin,P121~127等
[9]http://77.170.120.22/ex-baba/engels/articles/paperwolfmessing.htmlhttp://www.sathyasai.or.jp/mikotoba/discourses/d_19801122PM.html

【参考】
S・オストランダー、L・シュローダー『ソ連圏の四次元科学(上下)』たま出版
Sheila Ostrander, Lynn Schroeder『Psychic Discoveries』Marlowe & Company(上記の増補版)
Tatiana Lungin『Wolf Messing』Paragon House
http://77.170.120.22/ex-baba/engels/articles/paperwolfmessing.html
ロシア語ウィキペディア該当ページ
http://paranormalc.blogspot.jp/2010/06/wolf-messing.html http://www.youtube.com/watch?v=HzypQJ4BGe8

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