ヴィクトル・シャウベルガー

ヴィクトル・シャウベルガー(Viktor Schauberger)、1885~1958。オーストリアの森林監督官、ナチュラリストで、発明家としても知られる。
 オーストリアのホルツシュラグで、12人兄弟の8人目として生まれる[1]。父レオポルト・シャウベルガーは森林監督官で、身長は2メートル以上あり、シャウベルガー本人によれば、川の水質と運搬力が気温の低い夜、特に満月時に強くなると見抜いていたという[2]
 ヴィクトル本人はアイヘンの小学校、リンツの国立学校に学んだ後、1904年から自身も森林監督官となる。第一次世界大戦に従軍した後、シャウムブルク=リッペ侯アドルフ2世に仕える[1]。1922年には、アドルフ2世の依頼で、独自の理念に基づいた木材運搬用水路を設計、これにより輸送コストを大幅に下げたことで注目され[3]、以後、同様の水路システムを各地に建設し、農業省の顧問も務めた。1930年代には、旧ユーゴスラビアやトルコ、チェコスロバキアでもこのシステムの設計を請け負ったが、契約上の問題が生じたことで1934年に水路建設からは手を引く[4]
 他方、水路建設で得た資金で、1930年代初頭から独自のエネルギー理論に基づいた「リパルシン」と呼ぶ装置の開発を進める[5]。このリパルシンは、容器内の水を巡回させることで水の浄化に使用される他、発電用のタービンにもなり、さらには浮揚力を生み出すこともできるとされている[6]。 彼は1934年6月10日には知り合いのつてを頼って、当時のヒトラー首相とも会見し、独自のエネルギー理論を説いた。ヒトラーは彼の主張を疑わしく思ったようだが[1]、シャウベルガーはその後も自説を唱え続け、実際に彼の理論に基づく推進装置の実験が行われたとも言われる[7]
 第二次世界大戦中のシャウベルガーの動向については、正確なところは不明である。
 1941年にエルンスト・ウーデット空軍上級大将(1896~1941)の注目を浴びてメッサーシュミットの航空機エンジン冷却システムに協力したとか[8]、1943年に召集を受け、その後マウトハウゼン強制収容所やレオンシュタットで空飛ぶ円盤の開発にあったとか[9]、チェコスロヴァキアでルドルフ・シュリーファーの円盤型航空機開発に協力したなどの諸説がある[10]が、いずれにしても彼の理論がナチスの円盤開発に利用され、何らかの形で巻き込まれたとの巷説が流布している。シャウベルガーの推進装置を利用した円盤型飛行装置については、1945年2月19日にプラハで試験飛行が行われ、3分間で高度1万5,000メートルまで上昇、時速2,200キロに達したとも言われるが、これは戦後になって公表されたもので、シャウベルガー本人もこの試験飛行について承知していなかったようである[11]。しかし3月6日、アメリカ軍がレオンシュタインに侵攻してきたためすべての試作品は破壊され、さらにウィーンを占領したソ連軍はシャウベルガーのアパートから文書や計画書をすべて持ち去り、さらに侵攻してきたアメリカ軍がレオンシュタインの自宅にあった機材をすべて押収したため、シャウベルガーが戦争中何を行っていたかは一切記録が残っていない[1]
 1947年になると、シャウベルガーはザルツブルクに移り、リパルシンの応用である水の浄化装置の研究を始め、農業実験を行う[1]。一方1951年には、息子ヴァルターとともに自然保護の団体「グリーン・フロント」を設立している[12]
 1958年、アメリカの企業体ゲルクシャイマー・コンソーシアムがシャウベルガーと接触し、新しい発電技術開発のためにシャウベルガー父子はアメリカに渡ることになった。しかし当時シャウベルガー本人の健康状態は悪化しており、シャウベルガーはすぐにオーストリアに帰郷を望んだ。その結果父子が実質的にコンソーシアムにヴィクトルの文書、設計図、モデル、あらゆる将来のアイデアや発明に対する権利を委託するという趣旨の契約を交わしてヴィクトルは帰国した[13]。帰国から5日後、シャウベルガーは死亡した。死の直前には、「彼らは私からすべてを奪っていった。すべてだ。自分自身さえも私は所有していないのだから」と繰り返していたという[14]。  

【評価】
 オーストリアの発明家で自然主義者であるが、ナチスのUFO開発との関連でしばしば名前の出てくる人物である。彼の「内破」[15]理論に基づいた独自の動力装置は、ナチスが開発しようとしたUFOの推進機関に採用されたとされる一方、一種のフリーエネルギー装置とも目されている。
 ナチスのUFO開発については、1944年12月14日付「ニューヨーク・タイムズ」紙が、当時連合国のパイロットが頻繁に目撃していた「フー・ファイター」がナチスの秘密兵器ではないかと報じたことがあるが、この当時「フー・ファイター」は謎の光点として認識されていた。ナチスが円盤型をした航空機を開発していたという主張は、1950年、つまりアーノルド事件によって「空飛ぶ円盤」の存在が認知された3年後、イタリアとドイツで自称円盤開発者が名乗り出てから生まれたものである。そのUFOの動力装置としてシャウベルガーの「内破エンジン」が採用されたとも言われるが、確認されていない[16]
 なお、「リパルシン」や「内破エンジン」など、シャウベルガーは、その独自の解釈に基づく自然観察から着想を得ている。このように自然に学ぶというシャウベルガーの発想は、幼い頃から自然に親しんで得られたものと言われ、それが木材運搬用水路の成功で確信にまで至ったものであろう。「リパルシン」と呼ぶ動力装置も、本来急流に逆らって逆進するマスの動きに着想を得たもので、シャウベルガーはマスの鰓や動きなど身体の構造そのものが、流れに逆らう渦を巻き起こし、これを推力にしていると考えた[17]。そのため、シャウベルガーの動力装置を「マス・タービン」と呼ぶこともある。さらにシャウベルガーは、水の温度によって運搬力が異なるという考えを推し進め、「生きた水」とそうでない水とがあるとし、生きた水や空気のエネルギーを取り出して活用するという着想を得たようだ。そのために特殊ならせん型の動きを活用し、こうした動きにより空気や水を活性化し、それ自体に潜在するエネルギーを取り出そうとした。この意味で、シャウベルガーが「リパルシン」による水の浄化に言及する際には、単に不純物を除くよりも、死んだ水を生きた、エネルギーに満ちた水に戻すということを意図していたようだ。
 1958年のアメリカ訪問と帰郷直後の死については、アメリカ政府がシャウベルガーの理論を密かに独占したという、一種の陰謀論めいたものも主張されているが、実際にはコンソーシアムの側がシャウベルガーの理論に疑念を持ち[18]、健康状態の悪化していたシャウベルガー本人も相手側の意図に疑問を持って早期の帰国を望み、その結果コンソーシアムの側が将来何らかの利益が得た場合の保険として契約を結んだということではないだろうか。実際彼の理論は現代の科学理論からは受け入れられておらず、アリック・バーソロミューの『自然は脈動する』によれば、「ヴィクトルの機械のどれもがかなりの期間にわたって意図したエネルギーを生み出したことを示す、信頼するに足る証拠はない。」(p353)とのことである。そして彼の理論を詳細に語る資料も残っていない。資料が残っていない理由としては、ソ連やアメリカが彼の書類や模型をすべて持ち去ったためとされているが、終戦直前の混乱の中でこうしたものが意図的に持ち去られたというのも考えにくい。
 他方、自然に学び、生きた水のゆりかごたる自然林保護をいち早く訴えた彼の活動は、自然保護思想やバイオミミックリー(生物模倣工学)の元祖的存在とも言えるだろう。欧米では現代でもシャウベルガーの理論を支持する者たちがいる[19]

【脚注】
1. ドイツ語版ウィキペディア該当項目
2. バーソロミュー(2008)p19
3. バーソロミュー(2008)p24~27
4. アレクサンダーソン(2012)p44
5. バーソロミュー(2008)p342
6. バーソロミュー(2008)p344,345,349
7.たとえばバーソロミュー(2008)p328及び329は、1940年にベルリンの企業によって最初の装置が作られたがうまくいかず、その後シャウベルガーが家の近くのウィーンの工場で最初の円盤型プロトタイプを実験したところ、固定ボルトから外れて工場の天井に穴を開けたとする。
8. フランス語版ウィキペディア該当ページ
9.アレクサンダーソン(2012)p157,158
10.バーソロミュー(2008)p329
11.バーソロミュー(2008)p349
12.アレクサンダーソン(2012)p121
13. バーソロミュー(2008)p332、アレクサンダーソン(2012)p212、213
14. アレクサンダーソン(2012)p213
15.「内破(implusion)」とは、物質からエネルギーを引き出す原理としてシャウベルガーが想定した理論で、「implusion」という英語は核融合を人工的に引き起こす意味での「爆縮」とも訳される。シャウベルガーの言う「内破」は、通常のエンジンが「爆発」という外に広がる現象を利用するのに対置して用いられたようで、多分に哲学的・観念的なニュアンスが強いようだ。バーソロミュー(2008)によれば、それは原子レベルの反応であり、自然界においても自然に生じているものである(p328)。
16. 1950年、イタリアのジョセッペ・ベルッツォが3月24,25日付「ジオナール・ディタリー」誌に、自らUFO開発に関与していたと述べた他、1950年3月30日付「デア・シュピーゲル」誌にルドルフ・シュリーファーが同様の内容を主張、さらにイタリアのリーノ・サグリオーニ、レナト・ヴェスコなどがUFO開発への関与を主張している。しかしこれらの人物はいずれもシャウベルガーに言及していない。
17. バーソロミュー(2008)p21
18.バーソロミュー(2008)p332
19.バーソロミュー(2008)は、シャウベルガーの理論を研究する人物としてスウェーデンのオロフ・アレクサンダション、オーストリアのヨルク・シャウベルガー、ドイツのノルベルト・ハートゥーンなどの名を挙げる。また同書p336は、1996年に重力低減装置の詳細に言及した旧ソ連出身のエウゲニー・ポドクレトノフが、シャウベルガーの理論に基づいた可能性を示唆している。

【参考資料】
アリック・バーソロミュー(2008)『自然は脈動する』日本教文社
オロフ・アレクサンダーソン(2012)『奇跡の水』ヒカルランド
http://de.wikipedia.org/wiki/Viktor_Schauberger
http://fr.wikipedia.org/wiki/Viktor_Schauberger
http://www.zeit.de/2012/14/A-Nazi-Ufo/seite-2

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