レッドマーキュリー

レッドマーキュリー(Red mercury)。核融合反応を促進するとされる赤い物質のことで、「赤い水銀」の意味。
 レッドマーキュリーの噂が最初に西側に広まったのは、1970年代のことである。しかし、レッドマーキュリーが世界的な注目を浴びるようになったのは、1991年のソ連崩壊直後のことであった。旧ソ連がいくつもの国家に分裂するという混乱の中で、ソ連国内だけに秘匿されていたレッドマーキュリーがソ連圏外、特に核兵器保有を目指すイランやイラク、リビアといった諸国に流出することが懸念されたためだ。
 このときレッドマーキュリーについては、旧ソ連で密かに開発された物質で、水銀を主成分とするが毒性はなく、味も匂いもなく水に溶けない赤い粉末だが、摂氏126度以上に熱すると黄色に変色するなどの特性も広まった。さらに1993年のプラウダは機密情報として、レッドマーキュリーは通常爆弾や核爆弾の促進やステレス塗料の製造、さらにはICBMの精密誘導などさまざまな兵器に使用可能で、アメリカやフランス、核開発を目指すサウジアラビアやイスラエル、イラン、イラク、リビアの企業が購入しているとした。
 またイギリスのテレビ局チャンネル4は1993年と1994年にレッド・マーキュリーに関する番組を放映し、中性子爆弾の開発に関わったアメリカの核物理学者サミュエル・T・コーエン博士もレッドマーキュリーは実在するものであり、「極く少量の特殊な核物質を通常物質に混ぜ、これを原子炉に投入するか、あるいは分子加速光線を当てることで製造される」とし、「起爆すると非常に熱くなり、強力な圧力を生み出すため、重水素と組み合わせて核融合反応を起こすことができる」と述べている。この方法によって非常に小さなサイズの水素爆弾を製造することができ、コーエンは、旧ソ連の時代、大きさが野球のボールくらいの核兵器も製造されていたとも述べていた。
 レッドマーキュリーに関心を持つとされたイスラエルであるが、実際にはレッドマーキュリーの何たるかを承知しておらず、敵対するイラクやリビアといった諸国がレッドマーキュリーがこうした国々に流出することを本気で恐れていた。当時イスラエルの情報機関モサドは、友好国の情報機関に対し、レッドマーキュリーとはどんな物質なのか、旧ソ連の外にこの物質が流出したという事実はないのか、について可能な限り詳細な情報を求めていた。
 実際、世界のブラックマーケットでは、レッドマーキュリーと称する物質の売買がもちかけられたことが幾度もあり、2001年9月11日のアメリカ同時テロ事件を首謀したウサーマ・ビンラーディンもその入手に関心を持っていたという報道がある。
 実際の取引では、価格は1キログラムあたり10万ドルから50万ドルという高額であり、取引の途中問題の物質が押収された例も多い。そして実際に押収された物質は、純粋な水銀や、水銀とアンチモンの化合物,ヨウ化水銀や酸化水銀、シアン化水銀、さらには水銀をマニキュア液で赤く着色したものなど、いずれも通常の物質で、少なくとも核融合を促進するような機能は持っていない。

 今のところ、核反応を促進する機能を持つ物質としてのレッドマーキュリーなる物質が実在するという証拠はなく、2004年9月、イギリスでレッドマーキュリーの売買事件が起きたときには、国際原子力機関(IAEA)も調査を行い、レッドマーキュリーなるものは存在しないと結論している。

 他方で、レッドマーキュリー詐欺事件は今も後を絶たないようだ。
 なお、錬金術においては、水銀は硫黄とともに、他のあらゆる金属を生み出す元素的存在と考えられている。また、卑金属を金に変える力を持つ賢者の石は、赤い色をしていると言われている。「赤い水銀」を意味するレッドマーキュリー騒動の背後に、こうした錬金術的観念が若干の影響を及ぼしている可能性はある。

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