コビトゾウ(Pygmy Elephant)。成獣になってもある程度以上の大きさにならない小型のゾウのこと。大きさに明確な基準はないが、大体肩高2m以下にしかならないものがコビトゾウではないかと言われている[1]。
絶滅種としては、肩高1.5m以下の小型のゾウが地中海地域などに生息していたことが確認されている。しかし、未知動物学の対象となるコビトゾウは、20世紀初頭以来アフリカで目撃され、時には射殺されているもので、同様の小型ゾウの噂はインドやタイにもある。
アフリカの諸部族の間には、普通のアフリカゾウよりも小型のゾウの存在が伝えられており、他のゾウと区別してワカワカ、アベレなどと呼ばれる。ワカワカについては、普通のゾウより小型で毛深く、水辺でしばしば目撃されるという。こうしたコビトゾウらしき存在は、
20世紀初頭のアフリカで何件も報告されている。たとえば1905年[2]には、コンゴと名づけられた雄のゾウがニューヨークのブロンクス動物園に買い取られた。これは動物学者Theodore
Noackによって新種であると認定され、Loxodonta pumilioという学名も付けられたが、成長すると肩高2.1mになり、現在ではマルミミゾウ(Loxodonta africana cyclotis)であったとされている。1911年頃には、当時のベルギー領コンゴでベルギー軍のFranssen少尉なる人物が肩高1.66mのゾウを射殺したという。他にもコビトゾウとされる標本は何体かあり、2003年にこうした標本9体のDNA鑑定が行われたが、すべてマルミミゾウと判明した。
インドのケララ州にはカッラーナと呼ばれる小型のゾウ住むと言われている。カッラーナについては、2005年1月8日、写真家のSali Palodeが写真を撮ったと主張する。Palodeは3日後も死んだ雌の写真を撮ったと主張し、いずれも成獣の特徴を持っているにもかかわらず肩高は1.5mほどとしたが、写真には大きさを判定する比較用の物体が写っていないため正確な大きさは不明である。同じ年に調査も行われたが、カッラーナの実在を示す証拠は得られなかった。
タイでは、チャン・コム、あるいはチャン・プルと呼ばれる小型のゾウが1920年頃まで住んでいたと言われるが、新種のものと確認されてはいない。現在ボルネオ島のサバ州には、通称をボルネオコビトゾウと呼ばれる小型のゾウが住んでおり、Elephas maximus borneensiという学名も一部では提唱されているが、これは種としてはアジアゾウであり、本来はフィリピンから運ばれた集団が島内で小型化したもとされている。
【主な目撃例】
1906年、ドイツの動物学者Theodor NoackによってガボンのNdjol?の6歳のゾウがコビトゾウと確認され、Loxodonta pumilioと名づけられた。
1911年、Le Petitなる人物がレオポルド2世(現在のマインドンベ湖)湖北岸のTomba-Mayiでこの水ゾウ5頭を見た。
1911年ベルギー軍Franssen少尉なる人物が肩高1.66mのコビトゾウを射殺。Loxodonta fransseniと命名された。
1923年、Hornadayが同じ地区のN‘Gobi湖周辺でコビトゾウを報告。
1926年PohleがFernan Vazで報告。
1932年、ベルギー領コンゴのApiで、コビトゾウ2頭が捕らえられた。それらは肩まで1.3mと1.45mだったが、牙は長くほとんど地面についた。
1948年ガボン沿岸Aloomeで肩高1.95mのコビトゾウ射殺。
1969~1985年にかけてアルリック・ローダーは赤道ギニアやカメルーン内陸部の森林地帯で16回の現地調査を実施、26~29センチの足跡を発見、オス2頭の死骸を目撃。
1982年5月、旧西ドイツの元コンゴ大使ハロルド・ネストロイがコンゴのリクアラで6頭を写真撮影。成獣4頭は肩高約1.6m。
1982年、在コンゴ独大使としてLikouala地区のテレ湖を含む自然公園でゾウ狩をしていた 。テレ湖は恐竜のうわさがありリコウアラはワカワカが目撃されフランセンも射殺した。ネストロイはコビトゾウの群れとする写真を撮り、その直後通常のマルミミゾウとバッファローを同じ開拓地で撮った。2枚の写真の1枚にシラサギが写っており、そこから成獣が1.5mと推定される。
1995年、ケララ森林研究所は、部族の報告でカッラーナ探索を行った。
フランセンの頭蓋骨を含むTerneuvenとパリの9体のコビトゾウ標本のDNA分析が2003年に行われ、頭蓋骨の形態から、これらすべては非常に小型で、少なくとも4つは成獣ですべてのpumilioとfransseni標本はマルミミゾウであった。
ケララ州Palode村の美術教師でプロ写真家のSali Palodeは2005年1月8日にカッラーナとする写真を何枚か撮った。
2005年1月、バングラデシュに拠点を置くIIScの環境学者に支援されたケララ森林研究所の調査では糞を探そうとしたが直前の雨で糞が流され中止された。ケララ森林研究所の係員は、カニ族は群れを離れた若い雄を見誤ったりしないと言った2005年3月にも糞の捜索が行われた。同じ年の5月にもケララの森でコビトゾウの捜索が行われたが、チームはコビトゾウは少なくともケララの森にはいないと結論した。
【評価】
コビトゾウという名称はかなり曖昧に使用されており、少なくとも3種類のゾウについて用いられている。一つは、アフリカなどで目撃されるUMAとしてのコビトゾウであり、2つめがかつて生存していた絶滅種である。そして3つめが、ボルネオに生息するコビトゾウである。
現在の動物学では、ゾウは2属(アジアゾウ属とアフリカゾウ属)3種(アジアゾウ、ソウゲンゾウ及びマルミミゾウ)のみとするのが一般的である。実際、アフリカでコビトゾウとされたものは、そのすべてがマルミミゾウの個体レベルでの変異とされている。
インドのカッラーナやタイのチャン・コムについても同様の主張がなされており、ボルネオコビトゾウについては、独立した亜種(人間で言えば人種程度の差)にすべきかどうか議論がある。
ゾウは個体レベルでの大きさの差が大きく、子供の頃は頭が比較的大きかったり、毛深かったりする。こうした要因から、コビトゾウという別種のゾウと間違われた可能性も指摘されている。
【脚注】
[1]Heuvelmans(1995)P435は成長したコビトゾウの肩高を1.6~2mとする。
[2]Heuvelmansは1906年とする。
【参考】
Bernard Heuvelmans『On the Track of Unknown Animals』KPI
並木伸一郎『未確認動物UMA大全』学研パブリッシング
Matt Salusbury「Pint-Sized Pachyderms??」(Fortean Times No.252収録)