アンティキティラ・メカニズム

アンティキティラ・メカニズム(Antikythera Mechanism)、あるいはアンティキティラの機械、アンティキティラの歯車などとも呼ばれる。天体の運行を計算するために作られたと推定される古代ギリシアの歯車式機械装置で、しばしばオーパーツとして紹介される。
  1901年、海綿採取の潜水夫がギリシャのアンティキテラ島沖合の沈没船から回収した。当初発見された部分は直径13 センチほどの腐食した金属製品で、本体には文字らしきものも刻んであった。その後の洗浄作業により、この物体は複数の歯車が精巧にかみ合った複雑な内部構造を有し、何らかの計算機であることが認識されるようになった。1959年には、イギリスの科学史家デレク・デ・ソーラ・プライスが「古代ギリシャのコンピューター」と題する論文を発表し、アンティキティラの機械は恒星と惑星の動きを計算するための装置であり、知られる限り最古のアナログコンピュータであるとの説を展開した。その後1970年代には放射線を用いた撮影が行われ、内部構造がかなり明らかとなった。
  2005年になると新たな部品も発見され、翌年にはアンティキティラの機械調査プロジェクトによって本体の文字の95% にあたる2,610文字が解読された。その結果、刻まれた文章はこの機械の取扱説明書とも言える内容であり、その記述から、この機械が紀元前100
年頃、ローマ属州時代のギリシャで制作されたものであることが明らかになった。研究は継続中であるが、現時点では、この機械は一種の「携帯太陽系儀」とも言うべきものであり、一説には70
個以上とも言われる複雑な歯車機構を用いて太陽と月、当時知られていた5惑星の運行に加え、日食と月食の予測、さらにはオリンピックの開催日も表示できる機能を持ち、うるう年の補正もできることが明らかとなっている。
 アンティキティラの機械は現在、アテネ国立考古学博物館に現物が展示されているほか、復元品が米国モンタナ州ボーズマンのアメリカ計算機博物館、マンハッタン子供博物館に展示されている。

 アンティキティラの機械は世界最古の計算機として知られており、従来関係書籍では「オーパーツ」として紹介されることが多かった。「オーパーツ」とは、その物体が属する年代の技術ではとうてい作成できないと思われるような物体のことであり、テクノロジーの上で現代を上回る高度な古代文明、あるいは太古に地球を訪れた宇宙の知的生命体の存在を示すものとして引用されることが多い。アンティキティラの機械もこうした物体の代表例として紹介されることが多いが、実際には紀元前 1世紀の古代ギリシャの技術水準と天文知識を示すものではあっても、当時の技術で作成不可能なものではない。ただし、このような精巧な装置を作製するには、現代最高の時計職人にも匹敵する高度な技量が必要であると言われている。

 具体的にどこでだれがこれを作製したかはまだ結論を見ていないが、刻まれた文字の内容や、月の運行の計算技術に天文学者ヒッパルコスの理論が用いられているとされ、また惑星については当時知られている5惑星のみで天動説に基づいていること、刻まれた言語がコイネー(現代ギリシャ語の元になった言語)で書かれているなどから、古代のギリシャで作製されたことは明らかである。
 アンティキティラの機械と類似したものは、古代世界では他にもいくつか制作されていた模様であり、現物は確認されていないものの、古代ローマの政治家キケロ(紀元前106~紀元前43)は、その哲学対話集『国家論』において、アルキメデス(紀元前287~212)が太陽、月、その他当時知られていた5つの惑星の動きを予測する装置を複数作ったと記述している。アンティキティラの機械もこうした系統の機械装置と推定できる。この物体に関する研究は現在も継続中である。

【参考】

アンティキティラ島の機械調プロジェクト公式WEBサイト
Tony Freeth他「Calendars with Olympiad display and eclipse prediction on the Antikythera Mechanism
ジョー・マーチャント『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』 文藝春秋社
Could another ancient computer lie beneath the sea?(2014年9月22日付Mail Online)

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